次世代スパコンについて知る集い


2010年10月1日に開催された「第4回次世代スパコンについて知る集い」において寄せられましたご質問とその回答を下記のとおりご報告します。専門的なご質問もございましたので、回答も専門的になっているところがあります。

  【第4回次世代スパコンについて知る集い:Q&A目次】
Q1.
コンピュータ・シミュレーションで、自然界の現象を疑似的に再現することができると言われていますが、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。
Q2.
集中豪雨を予測するためには、理想的にはどのくらいの解像度が必要ですか。
 

Q1.コンピュータ・シミュレーションで、自然界の現象を疑似的に再現することができると言われていますが、具体的にはどのようなことをしているのでしょうか。

 コンピュータ・シミュレーションではさまざまなことが可能になります。具体的にコンピュータ・シミュレーションをするためにどのようなことが行われているかを簡単な事例を挙げて説明をします。
 ここでは、もっとも基本的で理想的な物理状態(※)で物を投げた時、あるいは物を落とした時の時間的な物の位置変化をシミュレーションすることを例にあげますが、実際には、時間変化による物理量の変化を求めることだけがシミュレーションの対象になるわけではありません。また、ここで紹介する事例は、あくまでもわかりやすく説明するための事例です。このような簡単な計算をスーパーコンピュータで計算させることはないと思われますので、ご承知おきください。
 高校の物理で、ニュートン力学の基礎方程式として、力(F)は、物質の質量(m)と加速度(a)の積で表わされること(F=m×a)を学んだと思います。静止している質量(m)キログラムの球に、ある時間変化する力(F(t))ニュートンをある時間(T)加え続けた時に、この球が元の場所からどのように動くかをシミュレーションしたいとします。
 先に記載しましたように、シミュレーションでは、ある時刻(t)の位置P(t)から極わずかの時間(h)だけ経た時刻の球の位置P(t+h)を計算することになります。
 加速度はこの極わずかの時間(h)の速度の変化で表すことができ、また、速度はこの極わずかの時間(h)の位置の変化で表すことができますので、先ほどのニュートンの物理方程式中にある加速度(a)を、我々が求めたい球の位置P(t)を使い、また離散化という手法を用いて計算機で計算できるような式とすると次のように書くことができます。

P(t+h)=h2F(t)/m+2P(t)-P(t-h)

 この式は見て分かるように、加減乗除の四則演算しか含んでいません。この四則演算のみとなった式を計算機が読める言語(プログラム)に書き換え、初期値として、加える力(F(t=0))と球の 質量(m)及び球の最初の位置と最初の速度から求められる値:P(t=0)とP(t=0-h)を与え、式の右辺に代入し、 式の左辺である新しい球の位置を計算します。後は、極わずかの時間(h)刻みで、力を加える時間(T)の間、上記式を繰り返し計算させることにより、球の位置(P(t))を計算できることになるのです。
 自然界の現象の多くは、このような単純な方程式では表現できませんが、例えば、空気や水のような流体の運動を記述するナビエ-ストークス方程式、電磁場を記述するマックスウェル方程式、重力場を記述するアインシュタイン方程式などの基本的な方程式をベースとして、自然界の変化の要因となっている要素を変数としてプログラムに取り入れ、より自然界の現象に近い物理式(物理モデル)を作成することで、コンピュータで疑似現象をシミュレーションできるようにしているのです。

(※) 物体はつぶれず、抵抗はない状態で、加えた力が全て加速度に反映される理想的な物理状態のこと。


Q2.集中豪雨を予測するためには、理想的にはどのくらいの解像度が必要ですか。

 集中豪雨や局地的大雨をもたらす積乱雲のスケールは10km程度なので、これをモデルで表現するには水平格子間隔で少なくとも2km程度以下が必要と考えています。実際の大気には様々なスケールの雲があるので、理想的には数百メートル以下の解像度が望ましいと考えられます。
 集中豪雨や局地的大雨の予測にどの程度まで解像度を上げる必要があるかについては、十分調べられていないので今後次世代スパコンで研究する重要なテーマの一つになります。またモデルの解像度に見合う初期値を用意する技術を開発することも重要です。


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