次世代スパコンについて知る集い

 
 平成22年10月1日(金)に第4回目の「次世代スパコンについて知る集い」を理化学研究所 計算科学研究機構(神戸市ポートアイランド)において開催しました。
 今回、101名の方にご参加いただきました。うち、6割の方が神戸市内からの参加でしたが、他府県からももご参加いただきました。ありがとうございました。
 当日いただいたご質問への回答はこちらです。各講師のプレゼンテーション要旨につきましては、こちらからご覧いただけます。プレゼン資料ついては下記のプログラムの中にPDFフ
ァイルで置きましたので、ダウンロードしてご覧ください。
 なお、当日回収させていただきましたアンケート調査の結果はこちらをご覧下さい。次回以降の開催の際の参考とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。
 第5回目の「次世代スパコンについて知る集い」については、日程等が決まり次第、ホームページ上でもお知らせいたします。

 
■概要
(1)主  催: 独立行政法人理化学研究所
(3)開催日時: 平成22年10月1日(金) 14:00~15:30
(3)開催場所: 理化学研究所 計算科学研究機構 
          (兵庫県神戸市中央区港島南町7-1-26) アクセスマップはこちら
(4)参加者:101名(企業35名、公的機関26名、学生12名、教育関係者9名、その他19名)    
(5)プログラム

14:00~14:10

地元が期待すること
 
矢田 立郎(やだ たつお) 
 神戸市長
14:10~14:20


今後の抱負
 
平尾 公彦(ひらお きみひこ)
 理化学研究所  計算科学研究機構長
 

  
14:20~14:50



14:50~14:55
スパコンを使った「タイヤ」や「ゴルフ用品」の開発
 
白石 正貴(しらいし まさたか)
 住友ゴム工業株式会社 研究開発本部 研究第一部 シミュレーション担当部長

 質疑応答

  
14:55~15:25



15:25~15:30

集中豪雨を予測する
 斉藤 和雄(さいとう かずお)
 気象庁気象研究所予報研究部第二研究室 室長
  
 質疑応答

  

15:30 閉会
       
■講演要旨
地元が期待すること:矢田立郎
 次世代スーパーコンピュータ・京速コンピュータ「京」に対して、四点、「地元が期待すること」をお話しします。
 一点目は、「京速コンピュータ「京」により、世界を牽引する最先端の研究成果が創出されること」です。国において戦略分野として選定されたライフサイエンス、ナノテクノロジー、地球環境・防災、ものづくり、宇宙の5つの分野において、これまで明らかにできなかった科学現象の解明や最先端の研究成果が、世界に先駆けて、この神戸の地から発信されるものと大いに期待しております。
 二点目は、「ライフサイエンス分野における、京速コンピュータ「京」を活用した研究開発が進展すること」です。京速コンピュータ「京」がライフサイエンス分野、すなわち計算生命科学の研究に活用され、これまで実現できなかった新しい治療法、難病や生活習慣病に対する新薬開発、新しい発想の医療機器開発などが大きく進展することが期待されます。それにより、医療産業都市構想がさらに発展し、ライフ・イノベーションのアジアにおけるグローバル拠点の形成の契機となることを大いに期待しております。さらには、兵庫県内には「SPring-8」、「X線自由電子レーザー」などの最先端研究機関が多数集積しており、京速コンピュータ「京」との連携によって、世界をリードする科学技術を創出していくことが期待されております。
 三点目は、「京速コンピュータ「京」を中核とする世界最高水準の研究教育拠点(COE)が形成されること」です。京速コンピュータ「京」を核として、大学や企業などがポートアイランドに集積し、当地がサイエンスアイランドとなることを期待しております。
 四点目は、「市民、子供たちに対して、わかりやすい情報提供が行われること」です。子供たちに対して、それら世界最高水準のもの・人・成果に触れる機会が与えられ、刺激を受けることによって、この子供たちの中から、日本さらには世界の未来を背負って立つ研究者が育っていくことを大いに期待します。 以上、「地元が期待すること」について、四点述べさせていただきましたが、ポートアイランドの地が、国内・海外の優れた人材を惹きつける世界に冠たる計算科学の中心となることを大いに期待しております。
 
今後の抱負:平尾公彦

 計算科学研究機構は7月に立ち上がった新しい組織ですが、そのミッションは、①「京」という愛称のスーパーコンピュータを運用し、できるだけ多くの方々に活用していただくこと、②自らが研究者を抱え、計算科学技術の日本の、あるいは世界の拠点としてその役割を果たしていくこと、です。 コンピュータは時空間を容易に超えることができるツールです。過去にさかのぼったり、未来に行くことができます。実験することができないような非常に巨大なもの、あるいは目に見えないミクロなものまで、シミュレーションによって再現し、予測をすることができるのです。その意味で、ちゃんとしたコンピュータを保持することが国家にとって非常に大切であるということが分かってきました。それゆえ、世界中で熾烈なスパコン競争が繰り広げられています。
 我が国も「京」を2006年から開発してきていますが、2日前に漸く第一号筐体を含めた8筐体が搬入されました。全体で800台以上の筐体が並ぶことになるので、8台というとちょうど1%です。しかしながら、このわずか1%で、かつて世界最速を誇った地球シミュレータの2倍以上の性能を持っているのです。2012年の完成時にはこの100倍の性能となるわけで、すさまじい威力があります。
20世紀は科学技術が非常に発展した時代で、我々の生活を豊かにし、健康を促進し、いろんな意味で人々の期待にこたえてきました。と同時に、科学と技術の細分化により、環境問題をはじめとするさまざまな問題も出てきました。我々はこうした問題の解決を迫られています。いわゆる真理を追究するような科学技術は今後も進められていくでしょうが、人類社会の持続性に寄与し人を支える科学技術が求められています。健康で快適な生活、安心・安全な社会をつくるにはどうしたらいいかということが迫られている課題です。
 
また、同時に現在は科学技術のエキサイティングな時代ともいえます。基盤技術は、いろいろな科学技術の未踏分野を切り開くツールとなっています。STM、スーパーカミオカンデ、次世代ゲノムシークエンス、すばる天体望遠鏡、SPring-8、X線自由電子レーザーなど、最新の技術の進歩を取り入れることによって、また新しいサイエンスが起こっていて、次世代スパコンもそのひとつです。そして、SPring-8、X線自由電子レーザー、スパコン、この3つはここ神戸市や兵庫県に所在します。つまり、兵庫県・神戸市は、世界の最先端がここから生まれていく非常に大きな可能性を持った土地と言えましょう。
 コンピュータシミュレーションは現代の科学技術の発展にとって不可欠な基盤技術であり、実験、理論と並ぶ第三の科学、ツールとして人類が獲得したものです。これによって、科学的に予測する時代に入ってきました。その意味で、スパコンは自然科学の知識獲得、発見に不可欠なのです。
 「京」を用いた科学技術の成果や知識は、人類の利益、幸せのために使われるべきだと思っています。シミュレーションが一番威力を発揮するのは未来を予測することです。たとえば、CO2が増えると地球の環境・気象に大きな影響を与えるという説を科学者が唱えていたがなかなか信用されませんでした。ところがコンピュータシミュレーションによって目に見えるよう映像化し説明することによって、人々の認識が深まりました。
 世界最先端のマシン「京」の性能は1秒間に10の16乗回の計算を行う10ペタフロップスですが、たとえば甲子園球場に阪神ファン5万人が集まって、各自が1秒回に1回、夜も寝ないで計算し続けて6000年かかる規模の計算を「京」は1秒間に行ってしまうのです。
 この「京」をどのような分野に使うかというと、市長が述べられたように、5つの戦略分野を国が選定しています。既に、産業界や研究者が手ぐすね引いて「京」の完成を待っています。

 
スパコンを使った「タイヤ」や「ゴルフ用品」の開発:白石正貴
 タイヤと路面の接地面は、通常の乗用車では葉書大ほどの大きさで、これが4輪では4つあることになります。このわずかな部分で、自動車の荷重、進む力、止まる力、曲がる力などすべての力を路面に伝えています。このようにタイヤと路面の接地面は非常に重要な役割を担っていますが、自動車が走行している時の接地面を直接見ることはできません。ゴルフクラブとボールの接触時間は1万分の5秒程度ですが、その瞬間にクラブに働く力やボール変形などを、実際に観察することは非常に困難です。しかし、より良いタイヤやゴルフ用品の開発のためには、観察が困難な、タイヤと路面の接地面やゴルフクラブとボールのインパクトの瞬間で起こっている現象を知りたい、という強い欲求を開発者は抱きます。そして、それを知る方法がシミュレーションです。住友ゴムグループがシミュレーション開発を始めた動機はそこにあります。開発当初はとても大変だったシミュレーション計算も年数が経ち、コンピュータの進化とともに日常的に利用できるようになってきています。同時に、今度は、タイヤゴムの分子レベルの挙動やゴルフボール飛翔中の空気の流れなど、もっと細かく、もっと大きな領域の複雑現象を知りたいという欲求を開発者は抱き、そのためにスパコンを使った大規模シミュレーションへ期待を膨らせます。「京」に代表されるスパコンは、このような現象の謎を解く力強いツールであります。住友ゴムグループは、シミュレーションを駆使して、より良い製品開発を短期間で行い、お客様へ優れた製品を早くお届けしたいと思っております。また、これまでベテラン技術者の持っていた経験やノウハウをシミュレーションを使って解き明かし、技術の伝承、確立に役立て、持続的な技術レベル維持向上にも活用したいと思っております。
集中豪雨を予測する:斉藤和雄
  集中豪雨は、暖かく湿った空気が大気下層に流入し、積乱雲群が次々に発生して大雨を降らせる現象で、場所と時間を特定して強雨を正確に予測するのはまだ難しいのが現状です。さらにスケールの小さな現象として少数の積乱雲で引き起こされ局地的な大雨があります。発生前の予測が困難なため「ゲリラ豪雨」などとよばれることもあります。  気象予報は、大型コンピュータの応用分野として古くから注目されてきました。気象庁は1959年に日本初の大型計算機IBM704を導入して翌年数値予報業務を開始、以来計算機システムを更新する度に、モデルの解像度や計算精度を向上させてきました。現在気象庁では格子間隔5kmのメソモデルを1日8回運用し、航空予報や降水短時間予報などに用いています。モデルの改良と初期値作成手法の高度化、新規データの利用などにより降水の予測精度は近年大きく向上していますが、対流性の強い雨の予測はまだ十分とは言えません。その原因としては、モデルの解像度や数値モデルに取り込む観測データが十分ではないこと、対流性の雨は僅かな条件の違いで結果が大きく変わることなどが挙げられます。  集中豪雨や局地的大雨の予測を改善する方向性として、モデルの格子間隔を細かくして積乱雲を表現できるようにすること、現象のスケールに応じた観測データを取り込むこと、予報の誤差を定量的に評価することなどが挙げられます。気象研究所では、雲を解像するモデルの開発、GPSのデータから推定した水蒸気量やレーダーのデータをモデルに取り込む研究、摂動を与えた複数例の数値予測(アンサンブル予報)から予報誤差を見積る研究などに取り組んでいます。これらにより、局地的な大雨を再現することや災害につながるような強雨の発生確率を定量的に示すことなどについて、成果が出始めています。  次世代スパコンを利用する事業の一つとして、「防災・減災に資する地球変動予測」が提案されています。その中で、気象研究所は、海洋研究開発機構などと連携して、局地的な大雨を直前予測する研究や、集中豪雨や局地的大雨の発生確率を時間・場所・強度を特定して求める研究などを進めていく計画です。これらの実証研究には膨大な計算資源が必要で次世代スパコンに期待したいと思います。
■質疑応答
こちらからご覧ください。
  
■アンケート調査結果
※101名中93名が回答
  
  
  
 
 
 
 
■お問合せ先
独立行政法人理化学研究所 
次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 
企画調整グループ 岡本匡文・内田紀子
TEL:078-940-5624, 5625 FAX:078-304-4956
電子メール:

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