次世代スパコンについて知る集い

 
 平成22年1月28日(木)に第1回目の「次世代スパコンについて知る集い」を、京都大学のご協力をいただきまして、京都大学(京都市)において開催しました。
 今回、予定数を上回る113名の方にご参加いただきました。京都府内に限らず、大阪府、奈良県、滋賀県、兵庫県などからもご参加いただきました。ありがとうございました。
 各講師のプレゼンテーション要旨はこちら、資料ついては下記のプログラムの中にPDFフ
ァイルで置きましたので、ダウンロードしてご覧ください。その他の配布資料はこちらからご覧になれます。
 また、当日いただきました多数のご質問につきましては、「質疑および意見交換」のセッション中で時間の都合等により十分な対応ができませんでした。ご質問への回答につきましては、こちらからご覧になれます。
 なお、当日回収させていただきましたアンケート調査の結果はこちらをご覧下さい。次回以降の開催の際の参考とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。
 第2回目の「次世代スパコンについて知る集い」については、日程等が決まり次第、ホームページ上でもお知らせいたします。

■概要
(1)主  催: 独立行政法人理化学研究所
(2)開催日時: 平成22年1月28日(木) 14:00~16:30 ※30分延長しました
(3)開催場所: 京都大学 吉田キャンパス 吉田南構内 学術情報メディアセンター(南館)202号室
          (京都府京都市左京区吉田二本松町) アクセスマップはこちら
(4)参加者:113名(学生22名、研究者45名、その他46名)    
(5)プログラム
14:00~14:10 主催者挨拶
 
平尾 公彦
 理化学研究所特任顧問
 計算科学研究機構設立準備室長
 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部副本部長
14:10~14:20 次世代スパコン開発の狙い
 
渡辺  貞
 理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部
 プロジェクトリーダー兼副本部長
14:20~14:45 世界最高性能を目指すシステム開発について
 
横川 三津夫
 理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部
 開発グループディレクター
14:45~15:10 次世代スパコンが切り拓く可能性について
~スーパーコンピューティングが変革する21世紀のものづくり~

 
加藤 千幸
 理化学研究所 研究主幹(東京大学教授)
15:10~15:20 休憩
15:20~15:30 次世代スパコンにかける若手研究者の夢
 
島  伸一郎
 海洋研究開発機構 
 横浜研究所地球内部ダイナミクス研究領域 研究員
15:30~16:00 質疑および意見交換
       
■その他配布資料
渡辺プロジェクトリーダー資料 「システム開発の狙い」
よくある質問と回答
「次世代スーパーコンピュータ開発・利用」の政府予算案
パンフレット(修正版)
■講演要旨
主催者挨拶:平尾公彦
 次世代スパコンは、これからの科学技術の発展に不可欠のインフラであり、一刻も早い完成が望まれています。我々としてはこのプロジェクトの成功に向けて、多くの方々のご意見に耳を傾けながら、必要な見直しを行いつつ、着実に推進していくことが重要と考えています。
 本プロジェクトには3つの目的があります。一つ目は、世界最先端・最高性能のスパコンを開発・整備し、世界トップレベルのスーパーコンピューティング基盤を構築すること。二つ目は、ここで開発したスパコンを最大限利活用するためのソフトウェアを開発し、科学技術のブレークスルーや国際競争力の強化を促進すること。三つめは、神戸に世界に誇れる計算科学の研究拠点を形成し、計算機科学と計算科学の分野融合や連携強化を図り、同時に次世代を担う人材を育成することです。
 スパコンを用いたシミュレーションは、理論と実験に加えて、科学を支える第3の柱と位置づけられており、幅広い分野において新たな可能性を切り拓くものと期待されています。例えば、新薬の開発、新デバイスとエネルギーの開発、台風の進路や集中豪雨の予測、ものづくりの設計プロセスの革新、物質の起源や宇宙の構造形成といった戦略的に重要な分野で成果が見込まれています。
 次世代スパコンでは、これまで部分的にしかできなかったシミュレーションが系全体に対して実行できるようになると期待されています。これにより、シミュレーションの科学的予測能力が飛躍的に拡大すると見込まれており、予測の科学の確立につながる重要なステップになると考えています。
 また、次世代スパコンが設置される神戸に世界に誇れる計算科学の教育研究拠点を設置します。この拠点では、世界トップレベルのコンピューティング環境を活用し、環境問題等の人類が直面する課題の解決に貢献していきたいと考えています。同時に、計算科学と計算機科学の分野融合や連携強化を図りながら、次世代を担う人材の育成と、エクサスケール・コンピューティングに向けた基盤研究を実施します。
 世界を驚愕させるような研究成果の創出に向けて、高い目標を掲げてプロジェクトを推進していきます。
 
次世代スパコン開発の狙い:渡辺 貞
 日本のスパコンは15年程前にはTOP500におけるスパコンのシェアで米国に次ぐ2位にあり、計算科学のための研究開発基盤として、世界の最先端にありましたが、近年ではシェア6位にまで後退するなど、長期にわたって低落傾向が続いています。
 本プロジェクトでは、このような状況を打破すべく、10ペタフロップス級のスーパーコンピュータの開発を通して、世界最高レベルのスーパーコンピューティング研究開発基盤を整備し、同時に国産技術を維持・発展させることを重要な目標として位置付けています。
 スパコンは様々な分野の最先端技術の結晶です。例えばCPUの開発には、最先端のCPUの設計技術、材料開発技術、製造技術、冷却技術などが必要となります。またCPU同士を結合するネットワークの開発には、ネットワーク構成技術、接続技術、高速信号伝送技術などが不可欠となります。このようにスパコンを開発することで、スパコンだけでなく様々な電子機器の技術発展が促進され、さらに次々世代のスパコン開発につながっていく技術が蓄積されると期待されています。
 今回のスパコン開発では、アプリケーションを高速に実行できることはもちろんですが、それと同時に低消費電力であること、高い信頼性を持つこと、運用性に優れているスパコンにするということに特に留意しました。そのために、ワット当たりで世界一の演算性能を持つ高信頼性のCPUを開発するとともに、ネットワークの冗長化等により高い信頼性と運用性を持つシステムを開発中です。
 このように、次世代スパコンは世界最先端の技術を結集したシステム開発を行っています。この経験は、次々世代(エクサフロップス)のスパコン開発につながっていくものと期待しています。
 
世界最高性能を目指すシステム開発について:横川三津夫
 次世代スパコン開発では10ペタフロップスの性能目標を達成するために、CPU単体の性能を向上させる必要がありました。マルチコア化を進め、SIMD機構を実装しました。また、レジスタ数を増強し、ソフトウェア制御可能なキャッシュメモリを採用することで、メモリアクセス性能が低下するという問題に対処しました。このほか、消費電力の削減や、実運用に耐えられる安定動作可能なシステムを実現するために、さまざまな工夫を盛り込んでいます。
 システム利用環境については、ファイルステージングを活用した2階層のファイルシステムを採用するとともに,バッチジョブを主体としたジョブ実行環境を提供します。また、プログラム開発環境として、Fortran、C/C++等のコンパイラ、MPI等の各種ライブラリ、デバッガ、プロファイラ等の開発支援ソフトウェアを提供します。プログラミングモデルとしては、CPU内はスレッド並列、CPU間はMPIライブラリによるプロセス並列を併用する、いわゆるハイブリッド並列のプログラミングモデルを推奨します。
 次世代スパコン施設は、神戸市のポートアイランドに建設中で、平成22年5月末の竣工に向けて順調に工事が進んでいます。
 今年度末まで試作・評価を完了させ、来年度からいよいよシステム本体の製造に取り掛かります。平成24年の完成を目指して、今後も着実にシステム開発を進めていきます。
 
次世代スパコンが切り拓く可能性について~スーパーコンピューティングが変革する21世紀のものづくり~:加藤千幸
 すべての物理現象はある法則(とそれを支配する方程式)によって決定されています。したがって、その方程式が解ければすべての物理現象が予測できることになりますが、それを解析的に解くことは通常はできません。そこで方程式を近似し、計算機で解ける形にして近似解を求めます。これを計算科学シミュレーションと呼びます。
 過去20年間を振り返ってみると、コンピュータはおおよそ10年ごとに1000倍の性能向上を達成してきていることがわかります。この急速な性能向上によって、例えば流体の数値解析の分野で見ると、定常解析から非定常解析さらに乱流渦の直接計算というように、より現実の世界に近いシミュレーションを行うことができるようになってきています。
 次世代スパコンによって、例えば空気抵抗の小さい自動車、超低騒音のファン、次世代材料、新約の開発等について、現状のシミュレーションをより精度良く実行したり、同じ程度のシミュレーションをより短時間に実行できるようになると期待されています。これによって数値解析による試作の代替や、様々な支配的現象の解明、数値シミュレーションによる本格的な最適化が実現すると見込まれます。
 その一方で、超大規模シミュレーションを円滑に実行し、成果を得るためには、アプリケーションの超並列化や、大規模データの効率的な処理方法等、様々な分野間で協力して取り組むべき課題があります。その中で研究者には、革新的な数値解析アルゴリズムの研究開発や物理モデルの高度化、超大規模データの効率的な処理方法の研究開発等に対する貢献が期待されています。ぜひ学生のみなさんには積極的に参加していただきたいと思います。
 
次世代スパコンにかける若手研究者の夢:島伸一郎
 大気中のエアロゾル(浮遊粒子状物質)は、雲の凝結核として働くことで雲の性質を変化させたりすることによって、気候に複雑な影響を与えることが指摘されています。エアロゾルは、温室効果気体による温暖化を相殺する役割を果たしている可能性がありますが、その動態についてはまだよくわかっていません。
 我々はエアロゾルや雲粒等からなる雲の微物理過程を、超水滴法という手法を用いて研究しています。超水滴法とは、複数の粒子を超水滴で代表させ、衝突併合には独自のモンテカルロ法を適用するというもので、詳細な雲微物理過程が扱えることがわかっています。これまでの研究で、積雲の生成が確認できていますし、エアロゾルと降水量の関係についても興味深い結果が得られています。
 現在の計算は、水平スケールで数km、時間スケールで数時間のオーダーですが、次世代スパコンと連結階層的アプローチを併用することで、水平スケールで数万倍、時間スケールで数十万倍の規模でのシミュレーションが可能になると考えており、より広範囲にわたる気象現象を取り扱えるようになるものと期待しています。
 
■質疑応答
当日、時間の都合によりお答え出来なかった質問への回答もあわせてこちらに掲載してございます。
  
■アンケート調査結果
※113名中78名が回答
  
 
■お問合せ先
独立行政法人理化学研究所 
次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 
企画調整グループ 川井和彦・内田紀子
TEL:048-467-9267 FAX:03-3216-1883
電子メール:

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