次世代スパコンについて知る集い


2010年6月12日に開催された「第3回次世代スパコンについて知る集い」において寄せられましたご質問とその回答を下記のとおりご報告します。専門的なご質問もございましたので、回答も専門的になっているところがあります。また、過去の次世代スパコンについて知る集いにおいて寄せられたご質問と類似のご質問につきましては、第1回、第2回のご回答をご覧いただくことにしています。

  【第3回次世代スパコンについて知る集い:Q&A目次】
Q1.
日本にはスパコンと呼べるものが何台ぐらいあるのでしょうか。それらのスパコンをつなげれば計算能力をあげることができるのでしょうか。
Q2.
今後のスパコンの発展は、従来よりも加速されるのですか、それとも減速するのでしょうか。
Q3.
日本でのCPUやOSの完全なオリジナル開発は、スパコンでは行われているのですか。この開発のフィードバックは技術的な応用という観点ではどのようなところに活かされるのでしょうか。
Q4.
小型化したスパコンを安価に製作し、ベンチャー企業が分割利用したりする方針はないのでしょうか。
Q5.
次世代スパコン用のOSであるLINUXはオリジナル版に手を加えたものですか。どこかスパコン用のLINUXを作る会社でもあるのですか。
Q6.
コンピュータシミュレーションの結果の正しさについては、どのように検証(確認)するのですか。
Q7.
各国が所有しているスパコンをクラウド型にすることはできないのでしょうか。
Q8.
日本のスパコン技術は、米国や中国に対抗できるものなのでしょうか。
 

Q1.日本にはスパコンと呼べるものが何台ぐらいあるのでしょうか。それらのスパコンをつなげれば計算能力をあげることができるのでしょうか

世界のスパコンの上位500位までのランキングリストを作成しているサイトの最新ランキング(2010年6月時点)を見ると、日本のスパコンは18台ランクインしています。これ以外にも、大学や研究所、あるいは企業が保有しているスパコンがあると見込まれますが、正確な台数は把握できません。 これらのスパコンをネットワークで接続すれば、見掛け上、大きな計算能力を持つスパコン・クラスタを構成することができます。しかし、各機関が保有しているスパコンの機種や基本ソフトウェアなどが異なりますから、それらを一つのシステムとして稼動させることは大きな課題です。また、スパコン・クラスタ環境でひとつの大規模シミュレーションを実行する場合(ケイパビリティ・コンピューティング)、多くのアプリケーションではスパコン間のデータのやり取りの時間が無視できず、シミュレーションに要する時間に対して通信時間が大部分を占めるなど、効率良く計算することは大変難しいであろうと考えられます。 他方、パラメータサーベイなどのキャパシティ・コンピューティングや、前処理や後処理など一部の作業に対しては、豊富な計算資源の有効活用を考えることも出来ると考えます。

「よくある質問と回答」のQ2もご参照ください。

Q2.今後のスパコンの発展は、従来よりも加速されるのですか、それとも減速するのでしょうか。

将来の技術的なトレンド等不明確な要素が多く、予測するのは大変難しいのですが、世界のスパコンの上位500位までのランキングリストを作成しているサイトの過去20年間データを見てみると、1位のマシンの性能向上はおおよそ年率1.88倍で推移しており、世界的な観点からは今後もこの程度の性能向上のペースが続くものと思われます。ただし、単一プロセッサの性能向上の主要な要因のひとつである半導体加工技術の微細化には限度があり、これまでと同様の性能向上は大変難しくなってきています。 次世代スパコンプロジェクトを機に、継続的にスパコン開発を推進していくことにより、従来以上に加速することが重要と考えています。

出典)http://www.top500.org/lists/2010/06/performance_development


Q3.日本でのCPUやOSの完全なオリジナル開発は、スパコンでは行われているのですか。この開発のフィードバックは技術的な応用という観点ではどのようなところに活かされるのでしょうか。

CPUについては、SPARCというオープンな規格に、ハイパフォーマンスコンピューティング向けの拡張をしています。OSについては、Linuxをベースにして、ハードウェアの機能に合わせた拡張をしています。 次世代スパコンの開発によって、世界トップレベルのスパコンを整備し、さらにそこで培った技術やノウハウが商用スパコンやその他のIT機器等の製品化に活かされ、多くの計算機センター、あるいはデータセンターなどに広く導入されることにより、我が国のスーパーコンピューティング環境の重層的な整備やIT関連技術の発展につながると期待しています。

第1回次世代スパコンについて知る集いの質疑応答Q17も併せてご参照ください。

Q4.小型化したスパコンを安価に製作し、ベンチャー企業が分割利用したりする方針はないのでしょうか。

次世代スパコンの産業利用の方法等に関しては、現在文科省において検討が進められています。具体的な検討状況につきましては、こちらをご覧ください。 次世代スパコンの開発で培った技術やノウハウは、商用スパコンやその他のIT機器等の製品化に活かされ、多くの計算機センター、あるいはデータセンターなどに広く導入されると期待しています。 スパコンについての疑問・質問の「次世代スパコンの運用面に関するご質問」もご参照ください。


Q5.次世代スパコン用のOSであるLINUXはオリジナル版に手を加えたものですか。どこかスパコン用のLINUXを作る会社でもあるのですか。

上記Q3の回答をご参照ください。


Q6.コンピュータシミュレーションの結果の正しさについては、どのように検証(確認)するのですか。

既知の実験結果や観測結果と比較により、数理モデルやシミュレーション手法の妥当性の検証を行います。検証したシミュレーションプログラムを用いて、未知の状況のシミュレーションを行い、現象把握に役立てます。

Q7.各国が所有しているスパコンをクラウド型にすることはできないのでしょうか。

「クラウド型」を「計算資源の内容については分からずとも、結果を返すもの」と考えた場合、技術的には可能だと思います。しかし、最先端のシミュレーションでは、ハードウェアの性能を十分に発揮させることが重要であり、利用する計算資源を熟知した利用をしなければ、十分な性能は達成できません。また、利用者への資源配分、利用時間の調整など運用面での調整すべき課題が多く、現状の「クラウド型」では対応できないと考えます。

Q8.日本のスパコン技術は、米国や中国に対抗できるものなのでしょうか。

このプロジェクトでは、完成時点で世界トップレベルの性能を持つスパコンを開発しています。また、性能だけではなく、幅広い利用者に活用していただくための使いやすさの面でも様々な工夫が盛り込まれたシステムになる予定です。 また、今回のスパコン開発では、最も基本的なCPUのマイクロアーキテクチャをはじめとして、ハードウェア、ソフトウェア、ネットワーク等のそれぞれのコンポーネントは、すべて我が国の技術で開発しています。このようにスパコンの開発に必要な要素技術を保持しているのは、現時点では米国と我が国だけであると考えています。ただし、中国は近年この分野の開発を加速しており、今後注視して行く必要があると考えます。


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