次世代スパコンについて知る集い

 
 平成22年6月12日(土)に第3回目の「次世代スパコンについて知る集い」を日本科学未来館(東京都お台場)において開催しました。
 今回、217名の方にご参加いただきました。うち、9割弱の方が東京都、神奈川県、千葉県からの参加でしたが、兵庫県、広島県等遠方からもご参加いただきました。ありがとうございました。
 当日いただいたご質問および時間の都合上対応しきれなかったご質問への回答はごちらからご覧いただけます。各講師のプレゼンテーション要旨につきましては、こちらからご覧いただけます。プレゼン資料ついては下記のプログラムの中にPDFフ
ァイルで置きましたので、ダウンロードしてご覧ください(著作権の都合上、公開できない資料もございます)。
 なお、当日回収させていただきましたアンケート調査の結果はこちらをご覧下さい。次回以降の開催の際の参考とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。
 第4回目の「次世代スパコンについて知る集い」については、日程等が決まり次第、ホームページ上でもお知らせいたします。

■概要
(1)主  催: 独立行政法人理化学研究所
(3)開催日時: 平成22年6月12日(土) 14:00~16:00
(3)開催場所: 日本科学未来館 7階 みらいCANホール
          (東京都江東区青海2-3-6) アクセスマップはこちら
(4)参加者:217名(中高生24名、一般成人他193名)    
(5)プログラム

14:00~14:05

主催者挨拶
 
平尾 公彦(ひらお きみひこ)
 理化学研究所特任顧問
 計算科学研究機構設立準備室長
 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部副本部長
  
14:05~14:35


14:35~14:40
(1)スパコンを知ろう
 
内田 啓一郎(うちだ けいいちろう)
 神奈川大学理学部情報科学科 教授
 質疑応答
  
14:40~15:20



15:20~15:25
(2)未来の新幹線づくり
 
栗田 健(くりた たけし)
 JR東日本研究開発センター 先端鉄道システム開発センター 課長
(環境技術グループリーダー)
 質疑応答

  
15:25~15:55



15:55~16:00

(3)体内時計を科学する(※著作権の都合上プレゼン資料を公開することができません)
 上田 泰己(うえだ ひろき)
 理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(CDB)
 システムバイオロジー研究プロジェクト プロジェクトリーダー 
 質疑応答

  

16:00 終了
       
■講演要旨
主催者挨拶:平尾公彦
 スパコンは現代の科学技術にとってなくてはならないツールです。例えば宇宙の起源を探ったり、物質の極限である素粒子を研究したり、地球温暖化の科学的な予測をしたり、これらはコンピュータシミュレーションでしかできないものです。また、遺伝子治療で重要な働きをするゲノムの解析、タンパク質の解析、それらを通じた新しい薬のデザイン、また新しい材料・デバイスのデザインなど、私たちの身近なところで、スパコンは非常に大きな地位を占めています。
 そのため、スパコンの開発では各国が激しくしのぎを削っています。我が国も国家基幹技術としてスパコンを位置付けており、平成18年から理化学研究所を中心として、次世代スパコンの開発を続けてきました。しかし、事業仕分けを受けて、いったんは凍結という判定を受けました。資源のない我が国にとって科学技術は本当に生命線ですから、この事業の凍結は我が国の科学技術の発展を大きく損なうものである、という批判が相次いで起こりました。幸いなことにこのプロジェクトは少し計画を見直して継続することになりましたが、事業仕分けの一連の流れの中で、いろんな方々にさまざまなご意見をいただきました。そういう声にも耳を傾けながら、このプロジェクトを最後までしっかりとやり遂げたいと考えています。
 事業仕分けの影響で、スパコンあるいはこのプロジェクトはとても有名になりましたが、スーパーコンピュータとはいったんどんなものなのか、スーパーコンピュータで何ができるのか、どういう科学的成果が得られるのか、私たちの生活とどのように関わっているのか、そういうことについて、必ずしもよく理解されていないのではないか、と思っています。今日は、我々のプロジェクトとその成果について、知っていただき、理解していただきたいと考えています。
 
スパコンを知ろう:内田啓一郎
 コンピュータの歴史は、紀元前のそろばんから始まり、18,19世紀くらいの機械的な計算機械になり、20世紀の半ばごろにはリレー式のコンピュータが発明されます。電子回路で作られたコンピュータはアメリカのENIACという機械が最初です。その後、コンピュータはアメリカではUNIVACやIBMなど、日本では日立、NEC、富士通等が製品化を進めました。
 コンピュータの中で、その時代時代で相対的に速いコンピュータをスーパーコンピュータと呼びます。1960年代の終わりくらいに、初めてのスーパーコンピュータが現われましたが、その後、半導体の性能向上を背景に驚くべき進化を遂げました。現在世界一のスーパーコンピュータJaguarとENIACを比較すると、約1兆倍もの性能向上が達成されたことになります。
 最先端のスーパーコンピュータの開発は熾烈を極めています。最新のスーパーコンピュータ世界のトップ10を見てみると、アメリカが断然優位でその後にドイツ、中国等がランクインしています。かつて日本は、旧航空宇宙技術研究所の数値風洞や、筑波大のCP-PACS、海洋研究開発機構の地球シミュレータで世界一の座についたことがありますが、現在ではトップ10にすらランクインできない状況が続いています。そこで、このような状況を打開すべく、2012年度に10ペタフロップスのスーパーコンピュータを開発して世界一を奪回しようというプロジェクトが始まりました。
 コンピュータがなかった時代は理論科学と実験科学の二つの科学が主役でしたが、近年ではスーパーコンピュータによる計算科学の重要性が認められ、大きな役割を担うようになってきています。スーパーコンピュータで数値実験を行うことで、理論科学で考えたことをコンピュータの数値実験で検証したり、観測や実験ができない現象を数値シミュレーションで解析したりすることもできます。実際の応用例としては、天気予報や、データ天文データ、高エネルギー実験データの解析、ゲノム情報の分析、など、幅広い分野で活用されています。
 このようにスーパーコンピュータは最先端の科学技術の進展に不可欠であり、今後も世界と競争していくためにも、最先端のスーパーコンピュータとそれを活用する技術が必要であることは言うまでもありません。
 
未来の新幹線づくり:栗田健
 2011年3月には新しいE5系新幹線「はやぶさ」が東北新幹線にデビューする予定です。その開発のために実験車両FASTECH360を使って2005年から約5年間にわたって走行試験を行ってきました。今日はFASTECH360の開発において行なわれてきたシミュレーションの活用事例、また次の次を狙って実施しているスパコンを使ったシミュレーションの事例について紹介します。
 FASTECH360においては、トンネル微気圧波を低減するために、先頭形状の開発に際し、シミュレーションの手法を取り入れています。トンネル微気圧波とは、列車がトンネルに突入した際に生じる圧縮波がトンネル内を音速で伝搬し、トンネル出口に到達した時に発生するパルス状の圧力波であり、列車が見えないのに聞こえる音や振動として沿線に影響を与えます。このトンネル微気圧波の低減のためには、列車がトンネルへ突入する際の圧力の上がり方を緩やかにすることが重要となります。このためにトンネル入口緩衝工、トンネル、列車をモデル化したシミュレーションを行い、FASTECH360の先頭車両を開発しました。その後さまざまな試験を経て「はやぶさ」の先頭形状に生かされています。
 騒音の原因について、単純な場合は、実験的な手法でも原因の究明が可能ですが、複合的な原因の場合は実験で把握することがは解析が難しい場合も多く、シミュレーションを用いたアプローチが必要有効となります。新幹線の連結部からの空力騒音の解析はそのような事例はその一例で、高周波音まで定量的に予測するには、スーパーコンピュータを使用した詳細な解析が必要となります。パンタグラフの騒音解析にもシミュレーションをが活用してされてきています。現在のシミュレーションにより空力騒音の発生メカニズムを解明することは実験を良く説明することができ、スパコンシミュレーションの産業応用利用の可能性を示すことができています。スパコンの能力が千倍になる大幅に向上すると、全体の製品「まるごと」あるいはそれに近い規模のシミュレーションが可能となるほか、現在と同じ規模の計算なら非常に多くのケースの計算ができることになり、早く結果が得られるようになることで最適設計ができるようになります。 今後もスパコンによるシミュレーションをこれからの新幹線車両開発に活用して行きたいと考えています。
体内時計を科学する:上田泰己
 生物の身体を構成する細胞は、「不可逆性(移り変わる)」と「反復性(繰り返す)」という性質を持っています。この反復性をつかさどるのが、「体内時計」です。体内時計は身体の様々な現象を制御しており、これについて知ることは多くの点で重要だと考えられます。
 体内時計の中枢中心は、脳の視交叉上核という神経細胞の塊に存在します。また、身体の各所(肝臓、腎臓、皮膚、血管、毛髪の幹細胞など)にも、末梢末端としての体内時計が存在することが知られています。体内時計は、約24時間周期で振動する、光や温度でリセットされる、温度が変わっても一定(温度補償性)、というった性質を持ちます。
 ゲノム解析の手法により、これまでに、体内時計の中心部分を構成する時間関連遺伝子(約20個の転写因子と3つの転写プログラム(朝, 昼, 夜))が同定されています。さらに、カゼインカイネース1という酵素が体内時計の周期を制御しており、その反応が温度に依存しないことが明らかになりました。すなわち、この酵素反応が、体内時計をつかさどる「時間の定規」としての役割を果たしています。
 この酵素の性質をさらに詳しく知るためには、計算機シミュレーションにより、それを構成する各原子の振る舞いを調べる必要があります。しかし、現行のスーパーコンピュータでは、1年を掛けて100万分の数1秒に相当するシミュレーションを行うのが限界であり、実際にはこの10倍程度の規模が望まれます。
 したがって、現行のスーパーコンピュータの10倍以上の性能を持つ次世代スー パーコンピュータを利用できれば、「時間の定規」の謎を解明することができると期待しています。
■質疑応答
こちらからご覧ください。
  
■アンケート調査結果
※217名中179名が回答
アンケート居住地(全体)
  
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開催情報入手手段
説明内容の感じ方(全体)
  
アンケート説明内容の感じ方(職業別)
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アンケートスパコンの必要性(全体)
 
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アンケート定期的な開催(全体)
 
アンケート時間の長さ(全体)
 
■お問合せ先
独立行政法人理化学研究所 
次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 
企画調整グループ 岡本匡文・内田紀子
TEL:048-467-9267 FAX:03-3216-1883
電子メール:

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