次世代スパコンについて知る集い

 
 平成22年3月2日(水)に第2回目の「次世代スパコンについて知る集い」を、東北大学のご協力をいただきまして、東北大学(仙台市)において開催しました。
 今回、予定数を上回る67名の方にご参加いただきました。うち、9割の方が宮城県内からの参加でしたが、東京都及び神奈川県からもご参加いただきました。ありがとうございました。
 各講師のプレゼンテーション要旨についてはこちら、資料ついては下記のプログラムの中にPDFフ
ァイルで置きましたので、ダウンロードしてご覧ください。その他の配布資料はこちらからご覧になれます。
 また、当日は多数のご質問をいただきましたが、「質疑および意見交換」のセッション中で全てのご質問に対応しきれませんでした。頂戴しましたご質問への回答につきましては、こちらからご覧になれます。
 なお、当日回収させていただきましたアンケート調査の結果はこちらをご覧下さい。次回以降の開催の際の参考とさせていただきます。ご協力ありがとうございました。
 第3回目の「次世代スパコンについて知る集い」については、日程等が決まり次第、ホームページ上でもお知らせいたします。

■概要
(1)主  催: 独立行政法人理化学研究所
(2)共  催: 東北大学サイバーサイエンスセンター
(3)開催日時: 平成22年3月2日(火) 13:30~16:00
(4)開催場所: 東北大学 片平キャンパス 
          多元物質科学研究所 材料・物性総合研究棟1号館1F 大会議室
          (宮城県仙台市青葉区片平2-1-1) アクセスマップはこちら
(5)参加者:67名(学生9名、研究者25名、その他33名)    
(6)プログラム
13:30~13:40 主催者挨拶(1.3MB)
 
平尾 公彦
 理化学研究所特任顧問
 計算科学研究機構設立準備室長
 次世代スーパーコンピュータ開発実施本部副本部長
13:40~13:50 次世代スパコン開発の意義(1MB)
 
渡辺  貞
 理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部
 プロジェクトリーダー兼副本部長
13:50~14:15 世界最高性能を目指すシステム開発(1.7MB)
 
横川 三津夫
 理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部
 開発グループディレクター
14:15~14:40 次世代スパコンが切り拓く可能性(9.3MB)
~地震と津波の高精度予測・災害軽減~

 
古村 孝志
 東京大学大学院情報学環総合防災情報研究センター教授・地震研究所教授
14:40~14:50 休憩
14:50~15:15 次世代スパコンが切り拓く可能性(8MB)
~航空機開発とスーパーコンピュータ~

 
中橋 和博
 東北大学大学院工学研究科教授 
15:15~15:30 次世代スパコンが切り拓く可能性(2.8MB)
~新しい全球気候モデルから期待されること~

 
富田 浩文
 海洋研究開発機構地球環境変動領域主任研究員 
15:30~16:00 質疑および意見交換
       
■その他配布資料
渡辺プロジェクトリーダー資料 「システム開発の狙い」
「第1回次世代スパコンについて知る集い」質疑と回答
よくある質問と回答
「次世代スーパーコンピュータ開発・利用」の政府予算案
パンフレット(修正版)
■講演要旨
主催者挨拶:平尾公彦
次世代スパコンは、これからの科学技術の発展に不可欠のインフラであり、一刻も早い完成が望まれています。我々としてはこのプロジェクトの成功に向けて、多くの方々のご意見に耳を傾けながら、必要な見直しを行いつつ、着実に推進していくことが重要と考えています。
 本プロジェクトには3つの目的があります。一つ目は、世界最先端・最高性能のスパコンを開発・整備し、世界トップレベルのスーパーコンピューティング基盤を構築すること。二つ目は、ここで開発したスパコンを最大限利活用するためのソフトウェアを開発し、科学技術のブレークスルーや国際競争力の強化を促進すること。三つめは、神戸に世界に誇れる計算科学の研究拠点を形成し、計算機科学と計算科学の分野融合や連携強化を図り、同時に次世代を担う人材を育成することです。
 スパコンを用いたシミュレーションは、理論と実験に加えて、科学を支える第3の柱と位置づけられており、幅広い分野において新たな可能性を切り拓くものと期待されています。例えば、新薬の開発、新デバイスとエネルギーの開発、台風の進路や集中豪雨の予測、ものづくりの設計プロセスの革新、物質の起源や宇宙の構造形成といった戦略的に重要な分野で成果が見込まれています。
 次世代スパコンでは、これまで部分的にしかできなかったシミュレーションが系全体に対して実行できるようになると期待されています。これにより、シミュレーションの科学的予測能力が飛躍的に拡大すると見込まれており、予測の科学の確立につながる重要なステップになると考えています。
 また、次世代スパコンが設置される神戸に世界に誇れる計算科学の教育研究拠点を設置します。この拠点では、世界トップレベルのコンピューティング環境を活用し、環境問題等の人類が直面する課題の解決に貢献していきたいと考えています。同時に、計算科学と計算機科学の分野融合や連携強化を図りながら、次世代を担う人材の育成と、エクサスケール・コンピューティングに向けた基盤研究を実施します。
 世界を驚愕させるような研究成果の創出に向けて、高い目標を掲げてプロジェクトを推進していきます。
 
次世代スパコン開発の意義:渡辺 貞
日本のスパコンは15年程前にはTOP500におけるスパコンのシェアで米国に次ぐ2位にあり、計算科学のための研究開発基盤として、世界の最先端にありましたが、近年ではシェア6位にまで後退するなど、長期にわたって低落傾向が続いています。
 本プロジェクトでは、このような状況を打破すべく、10ペタフロップス級のスーパーコンピュータの開発を通して、世界最高レベルのスーパーコンピューティング研究開発基盤を整備し、同時に国産技術を維持・発展させることを重要な目標として位置付けています。
 スパコンは様々な分野の最先端技術の結晶です。例えばCPUの開発には、最先端のCPUの設計技術、材料開発技術、製造技術、冷却技術などが必要となります。またCPU同士を結合するネットワークの開発には、ネットワーク構成技術、接続技術、高速信号伝送技術などが不可欠となります。このようにスパコンを開発することで、スパコンだけでなく様々な電子機器の技術発展が促進され、さらに次々世代のスパコン開発につながっていく技術が蓄積されると期待されています。
 今回のスパコン開発では、アプリケーションを高速に実行できることはもちろんですが、それと同時に低消費電力であること、高い信頼性を持つこと、運用性に優れているスパコンにするということに特に留意しました。そのために、ワット当たりで世界一の演算性能を持つ高信頼性のCPUを開発するとともに、ネットワークの冗長化等により高い信頼性と運用性を持つシステムを開発中です。
 このように、次世代スパコンは世界最先端の技術を結集したシステム開発を行っています。この経験は、次々世代(エクサフロップス)のスパコン開発につながっていくものと期待しています。
 
世界最高性能を目指すシステム開発:横川三津夫
 次世代スパコン開発では10ペタフロップスの性能目標を達成するために、CPU単体の性能を向上させる必要がありました。マルチコア化を進め、SIMD機構を実装しました。また、レジスタ数を増強し、ソフトウェア制御可能なキャッシュメモリを採用することで、メモリアクセス性能が低下するという問題に対処しました。このほか、消費電力の削減や、実運用に耐えられる安定動作可能なシステムを実現するために、さまざまな工夫を盛り込んでいます。
 システム利用環境については、ファイルステージングを活用した2階層のファイルシステムを採用するとともに,バッチジョブを主体としたジョブ実行環境を提供します。また、プログラム開発環境として、Fortran、C/C++等のコンパイラ、MPI等の各種ライブラリ、デバッガ、プロファイラ等の開発支援ソフトウェアを提供します。プログラミングモデルとしては、CPU内はスレッド並列、CPU間はMPIライブラリによるプロセス並列を併用する、いわゆるハイブリッド並列のプログラミングモデルを推奨します。
 次世代スパコン施設は、神戸市のポートアイランドに建設中で、平成22年5月末の竣工に向けて順調に工事が進んでいます。
 今年度末まで試作・評価を完了させ、来年度からいよいよシステム本体の製造に取り掛かります。平成24年の完成を目指して、今後も着実にシステム開発を進めていきます。
 
次世代スパコンが切り拓く可能性
~地震と津波の高精度予測・災害軽減~:古村孝志
 兵庫県南部地震以降、全国に高密度強震観測網が整備されたこと、全国の平野部の地下構造に関するデータの蓄積が進んだこと、そして強力なスーパーコンピュータが利用できるようになったことの3つが大きく進んだことにより、地震動シミュレーションによる地震の揺れの再現と予測が可能になってきました。兵庫県南部地震では、約15秒の間に周期1秒前後の強い揺れが2回続いたことにより、木造家屋に大きな被害が出たことが指摘されてきました。地球シミュレータを使った地震動シミュレーションにより、このような地震動の特徴が良く再現され、被害の原因を検証することができました。
 
今後起きる可能性の高い大地震を考えると、30年以内に高い地震発生確率を持つ地震として、南海・東南海・東海地震(40~80%以上)と、宮城県沖地震(99%以上)があげられます。南海・東南海・東海地震が同時に発生すると、九州から関東の広い範囲にわたり総人口の1/3以上の人が震度5強以上の強い揺れに見舞われる恐れがあり、事前に被害を予測して対策を講じておく必要があります。コンピュータシミュレーションは災害の予測と軽減のため重要なツールになることは言うまでもありません。強震動・地震地殻変動のシミュレーションと津波のシミュレーションを結合し、そして強震動のシミュレーションと被害検証・予測シミュレーションの組み合わせることにより、被害予測の精度は格段に向上して、強震動と津波の発生とこれらによる構造物の被害まで、一連の災害を時間を追って予測することが可能になります。
 
次世代スパコンを使うことで、地震と津波の予測を現行の数倍に高めた高精度な予測が可能となり、災害軽減に向けて大きく貢献するものと期待します。一方で、次世代スパコンでは、CPU-メモリ間の帯域幅が相対的に狭くなっていることなどから、これまでのコードそのままでは十分な実行性能を得ることが難しい問題があります。そのため、アプリ開発者は、キャッシュメモリの有効活用や、CPU間通信の最適化などのコードチューニングにこれまで以上に主体的に取り組む必要があります。
 
次世代スパコンが切り拓く可能性
~航空機開発とスーパーコンピュータ~:中橋和博
 飛行機の歴史は1903年のライト兄弟から始まりましたが、その時は飛行距離が36m、時間にして12秒でした。100年経った現在では、高度100kmに到達できる飛行機とロケットのハイブリッド機も登場するなど、飛躍的な進歩を遂げました。
 最近の旅客機の設計においては、低燃費と低騒音が特に重視されていますが、燃費を良くするためには、空気抵抗を最小にする必要があります。そのためにこれまでは風洞実験が有効な手段として利用されてきました。ところが、実際の飛行条件に近づけるためには、巨大化と高性能化が必須となるため、大規模な風洞設備を構築・維持することはコスト的あるいは技術的に困難になってきています。
 そこでスパコンを用いたCFD(数値流体力学)が風洞実験に代わる新しい手段として注目されています。これは空気の流れを記述するナビエ・ストークス方程式を数値的に解くというもので、近年スパコンの高性能化に伴って実用化が加速しています。三菱航空機(株)が開発を進めているMRJ(Mitsubishi Regional Jet)の設計でも多くの部分でスパコンが大活躍しています。特に日本は、欧米と比べて風洞設備が十分ではないために航空機の開発で大きなハンデを負っていますが、スパコンを用いたCFDにより、世界に誇れる高性能な旅客機が生まれそうです。
 次世代スパコンによって、さらに静かで環境に優しい航空機の開発が今後ますます加速すると期待しています。
次世代スパコンが切り拓く可能性
~新しい全球気候モデルから期待されること~:富田浩文
 現在気象観測は、地上や洋上の気象観測や人工衛星による観測などが行われていますが、すべてをカバーできているわけではありません。特に天気予報や気候予測は観測だけではできません。
 コンピュータを用いることで、日々の天気予報や将来の気候変動予測が可能になります。さらに、仮想的な地球をコンピュータ上に作り出し、様々な状況を想定した実験が可能であることもコンピュータを使うことのメリットです。これによって、新しい現象の予言や、観測記録が無い過去の気候の再現などが可能になります。
 天気予報や温暖化予測は、まず放射や大気の流れ、雲・降水等の様々な過程を盛り込んだ数値予報モデルを構築し、それに基づいて離散化した連立方程式を解くというやり方で行われています。
 気候予測問題でもっとも不確定な要素の一つは雲の影響なのですが、それまでのモデルでは、雲の効果を取り入れることができていませんでした。そこで我々はNICAMと名付けた新しいモデルを構築し、雲の階層構造を再現できる3.5km格子でシミュレーションを行うことで、熱帯の大規模雲擾乱(MJO)の再現に成功しました。
 次世代スパコンでは、3.5km格子のモデルを使って温暖化時の台風の挙動を調べることで、世界的な台風ハザードマップの作製や、モンスーンの挙動予測、台風の発生予測などにアプローチできるようになると期待しています。
■質疑応答
当日、時間の都合によりお答え出来なかった質問への回答もあわせてこちらに掲載してございます。
  
■アンケート調査結果
※67名中48名が回答
  
  
  
※無回答及び分類困難な3件を除く集計
※無回答及び分類困難な3件を除く集計 
※複数回答を含む
※複数回答を含む
 
■お問合せ先
独立行政法人理化学研究所 
次世代スーパーコンピュータ開発実施本部 
企画調整グループ 川井和彦・内田紀子
TEL:048-467-9267 FAX:03-3216-1883
電子メール:

「次世代スパコンについて知る集い」のトップページはこちら>>

?