次世代スーパーコンピューティングシンポジウム2008
「次代を担う世界水準の人材育成に向けて」
提 言
計算科学は、「予測の時代」である21世紀の科学技術や先端産業を牽引する基盤である。これまで我が国がこれらの分野で果たしてきた役割を継承し、さらに発展させていくためには、「予測の時代」を担う人材を輩出し、その活躍の場をこれまで以上に拡げていくことが必要である。
21世紀の科学技術を牽引する計算科学は、計算機科学と様々な科学技術領域の有機的・効果的学際融合により、新たな革新的分野に発展すべきであり、それを支える人材とその育成を求めている。新しい学術分野の創成や、イノベーションによる産業の国際競争力の強化に果敢に取り組む世界水準の人材は、これからの我が国、ひいては人類社会の発展に大きく貢献していくことになろう。
以上の認識の下、このシンポジウムでは次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクトを一つの契機に、次代を担う人材の育成に積極的に取り組む必要性を共通の理解として、以下のような取り組みを強力に推進すべきである旨提言する。
一、 教育、人材育成プログラムの多様な展開
21世紀の学術の展開を見据え、計算科学・計算機科学、さらにはその融合による新たな学術分野の展開を追究する研究科や専攻、教育研究の中核となる研究センターの設置が進展しつつある。また、大学院教育改革支援プログラムなどを活用したユニークな人材育成も進められている。
今後、進展する科学技術、産業の要請に適切に対応していくためには、将来の活動を支える人材に求められる素養を明らかにし、人材育成に係る関係者間でこの認識を共有することが必要である。大学・大学院教育では確実にその素養を身に付けさせるべきである。
さらに、数理科学など関連する他分野との連携、国内の大学・研究機関間の連携、国際協力等の国際的視点を重視しつつ、計算科学と計算機科学の融合と、その推進を担う人材の育成を目指した教育研究プログラム、学際融合型プロジェクトの具体化、制度整備を強力に推し進めることが必要である。
このため、大学・研究機関の取り組みの一層の深化、全体としての多様化、その規模の拡大と分野を超えた連携を積極的に推進し、教材の開発・共有、単位互換など大学・研究機関間における具体的な協力を促進すべきである。また、計算科学、計算機科学などの異分野の融合を担う人材の重要性を認識し、人材のキャリアパスを保証することにより、人材を継続的に確保する必要がある。
一、 人材育成に係る一層の産学の連携促進
人材育成における大学・研究機関間の協力はもとより、「実践力」の涵養を目的とした教育への人的な貢献や、インターンシップの充実・促進、共同研究の実施などを通じた大学・研究機関と産業界との間の相互協力を加速すべきである。さらに、このような活動を進めるために、大学・研究機関と産業界の相互理解を深め、大学のシーズと企業のニーズを共有・理解する場を作る必要がある。
また、産業界のスーパーコンピューティング技術の利用を促進し、それによってキャリアパスが確保されるという、人材の育成・確保の「正のスパイラル」を確立することも必要である。このため、次世代スーパーコンピュータ利用に係る「戦略的研究開発プログラム」において、大学と産業界との連携を加速するための戦略分野を設定するなど、次世代スーパーコンピュータをはじめスーパーコンピューティング技術の利用による成果を、速やかに創出するための具体的な措置を講じるべきである。
一、 拠点形成における人材育成機能の明確化・具体化
次世代スーパーコンピュータ開発利用プロジェクトは、次世代スーパーコンピュータ施設を中核とした研究教育拠点の形成を一つの目標としている。拠点形成に係る検討にあたっては、人材育成機能を明確化するとともに、計算科学に関する拠点や大学の情報基盤センターとの具体的な連携協力のあり方などを含め関係機関が担うべき役割を早期に具体化する必要がある。特に、利用のあり方については、産学官を問わず、大学や大学院学生を含む若手研究者・技術者の利用機会の確保と、利用にあたっての支援体制などの充実を図るべきである。
2008年9月17日
次世代スーパーコンピューティング・シンポジウム2008
参加者有志一同
全体討議
土居 範久 中央大学理工学部 教授、慶應義塾大学名誉教授
加藤 千幸 東京大学生産技術研究所副所長・教授、革新的シミュレーション研究センター長
宇川 彰 筑波大学教授・学長特別補佐 計算科学研究センター
中村 春木 大阪大学蛋白質研究所附属プロテオミクス総合研究センター長・教授
岡崎 進 名古屋大学大学院工学研究科教授
青木 慎也 筑波大学大学院数理物質科学研究科教授
テーマ別セッション
○「次世代の産業界をリードする人材の育成を目指して」
加藤 千幸 東京大学生産技術研究所副所長・教授、革新的シミュレーション研究センター長
賀谷 信幸 神戸大学大学院工学研究科教授
善甫 康成 住友化学株式会社筑波研究所上席研究員
田中 和博 九州工業大学情報工学研究院長・情報工学部長
中村 道治 株式会社日立製作所取締役
吉岡 信和 国立情報学研究所GRACEセンター准教授
○「計算機科学と計算科学の学際融合-その意義と人材育成を考える-」
宇川 彰 筑波大学教授・学長特別補佐 計算科学研究センター
久門 耕一 株式会社富士通研究所ITシステム研究所主席研究員
常行 真司 東京大学大学院理学系研究科教授
中島 研吾 東京大学情報基盤センター特任教授
中島 浩 京都大学学術情報メディアセンター教授
室井 ちあし 気象庁予報部数値予報課予報官
○生命体統合シミュレーション「来たれ 若人」
茅 幸二 理化学研究所次世代スーパーコンピュータ開発実施本部副本部長、次世代計算科学研究開発プログラム プログラムディレクター
姫野 龍太郎 理化学研究所次世代計算科学研究開発プログラム副プログラムディレクター
中村 春木 大阪大学蛋白質研究所附属プロテオミクス総合研究センター長・教授
北川 源四郎 統計数理研究所所長
北村 一泰 大正製薬株式会社取締役
下條 真司 情報通信研究機構上席研究員
中野 明彦 理化学研究所基幹研究所中野生体膜研究室主任研究員
安井 正人 慶應義塾大学医学部薬理学教室教授
○ナノ統合シミュレーション「計算科学者、計算機科学者、実験研究者および産業の接点と人材育成-ナノ統合ソフトについて-」
平田 文男 分子科学研究所教授
青野 正和 物質・材料研究機構フェロー、WPIセンター国際ナノアーキテクトニクス研究拠点長
潮田 資勝 物質・材料研究機構フェロー、NIMSナノテクノロジー拠点長、ICYS-IMATセンター長
岡崎 進 名古屋大学大学院工学研究科教授
押山 淳 東京大学大学院工学系研究科教授
金田 千穂子 株式会社富士通研究所ナノテクノロジー研究センター主管研究員
栗原 和枝 東北大学多元物質科学研究所教授
佐藤 三久 筑波大学計算科学研究センター長・教授
高田 章 旭硝子株式会社中央研究所特任研究員
兵頭 志明 株式会社豊田中央研究所計算物理研究室室長・主席研究員
○素粒子・原子核・天文宇宙「次世代スパコンで物質と宇宙の進化を探る」
青木 慎也 筑波大学大学院数理物質科学研究科教授
藏増 嘉伸 筑波大学大学院数理物質科学研究科准教授
延与 佳子 京都大学基礎物理学研究所准教授
住吉 光介 国立沼津工業高等専門学校教養科物理学教室准教授
出渕 卓 金沢大学理工研究域素粒子論研究室助教
富阪 幸治 国立天文台理論研究部教授
中原 康博 キヤノン株式会社解析技術開発センター研究員
八尋 正信 九州大学大学院理学研究院物理学部門教授
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